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ガスハイドレート表面への阻害剤とゲスト分子の吸着機構(Adsorption Mechanism of Inhibitor and Guest Molecules on the Surface of Gas Hydrates)
更新日: 2016年03月15日
米国化学会の雑誌the Journal of the American Chemical Societyに我々のグループの論文が掲載されました。
Yagasaki, T.; Matsumoto, M.; Tanaka, H. Adsorption Mechanism of Inhibitor and Guest Molecules on the Surface of Gas Hydrates. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137 (37), 12079–12085.
天然ガスパイプラインの中に水が混入するとクラスレートハイドレートが生成して、パイプを詰まらせてしまうという問題が古くから知られています。この対策に、年間で500億円もの費用が投じられています。これを防ぐ手段の一つが速度論的阻害剤です。速度論的阻害剤はハイドレート表面に吸着して、その部位周辺の結晶成長を妨げる高分子です。阻害剤として機能する高分子のほとんどすべてがアミド基を持っています。そのため、従来、その吸着の起源は阻害剤のアミド基とハイドレート表面の間に形成される水素結合であると言われていました。
我々はアンブレラ法を用いて、代表的な速度論的阻害剤であるpolyvinylcaprolactam(PVCap)の単量体のハイドレート表面への吸着自由エネルギーを計算しました。また比較のため、メタンをはじめとする様々なサイズの球状疎水分子についても自由エネルギー計算を行いました。その結果、阻害剤についても、またゲストとなる球状疎水分子についても、表面への吸着の起源はエントロピー的な引力であり、水素結合は全く寄与していないことが明らかになりました。我々はさらに、吸着分子の大きさと吸着力の関係がこの機構により説明できることを示しました。これらの結果は、従来と異なる新しい発想による速度論的阻害剤の開発に繋がる可能性があります。速度論的阻害剤は水に溶けなければならないので親水部は必須である。従来の速度論的阻害剤では、この親水部がアミド基に限られていましたが、これを別の親水基にすることで、より高機能な阻害剤を作れるかもしれません。
プレスリリース(岡山大学,2015年9月17日)