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氷IIとその水素無秩序相の熱力学的安定性; 零点エネルギーの役割 (Thermodynamic Stability of Ice II and Its Hydrogen-Disordered Counterpart: Role of Zero-Point Energy)

更新日: 2016年03月08日

米国化学会の雑誌J. Phys. Chem. B に我々のグループの論文が掲載されました。

 

Nakamura, T., Matsumoto, M., Yagasaki, T. & Tanaka, H. Thermodynamic Stability of Ice II and Its Hydrogen-Disordered Counterpart: Role of Zero-Point Energy. J. Phys. Chem. B, 2016, 120 (8), pp 1843–1848 DOI:10.1021/acs.jpcb.5b09544

 

氷には10種類以上の多様な結晶構造が存在します。それらは大きく水素秩序相と水素無秩序相に2分できます。水素秩序相とは、結晶のなかでの水素結合の向きまで完全に秩序化した構造で、水素無秩序相では水素結合の向きは乱雑になっています。(この乱雑さのことを、ポーリングの残余エントロピーと呼びます)

 

私達が日常親しんでいる氷Ihを含め、多くの水素無秩序氷は、極低温では、分子配列を変えないまま、より秩序の高い水素秩序氷に変化します。例えば氷Ihは低温で氷XI(こおり11)に、氷VIIは低温で氷VIIIにそれぞれ変化することがわかっています。氷Ihと氷XIは、結晶の形が同一で、水素結合の向きだけが違う、兄弟相です。

 

氷IIは唯一の例外です。2000気圧以上で出現するこの水素秩序氷は、温度が高くなっても水素無秩序氷にならず、そのまま融解するか別の構造の氷IIIに変化してしまいます。

 

なぜ氷IIだけ兄弟がいないのか。我々は理論計算により、仮想的に氷IIの兄弟相「水素無秩序化氷II (氷IId)」を作って、その安定性を調べました。その結果、氷IIでは、水素結合に加わるストレスがかなり大きく、絶妙のバランスで構造を保っていることがわかりました。これを無秩序化してしまうと、バランスが崩れて非常に不安定になってしまい、構造を保てなくなってしまうのです。

 

このように、実験では作れない仮想的な構造の安定性を評価し、その構造ができない理由を説明できるのは、理論的研究の大きな強みです。