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極限状態におけるクラスレート水和物の出現について: 極低温における解離圧力と占有率と惑星系への応用

更新日: 2020年12月18日

我々のグループの論文が出版されました。

Tanaka, H, Yagasaki, T, Matsumoto, M.

On the Occurrence of Clathrate Hydrates in Extreme Conditions: Dissociation Pressures and Occupancies at Cryogenic Temperatures with Application to Planetary Systems

Planet. Sci. J., Volume 1, Number 3

doi:10.3847/PSJ/abc3c0

 

業績

岡山大学異分野基礎科学研究所(理学部)理論化学研究室の、田中秀樹教授、矢ヶ崎琢磨特任講師、松本正和准教授の研究チームは、土星の衛星タイタンや木星の衛星エウロパ、ガニメデ、また準惑星の冥王星について、表面から内部海に至るまでの地殻をなす水の状態を、理論的に特定することに成功しました。

 

背景

低温で、一定の圧力の存在下において、気体と水がいっしょに凍結したガスハイドレートが生じることがあります[1]。また、太陽系の外惑星から太陽系外縁にいたる極低温の環境には、水が大量に存在することがわかっており、一部の水は窒素やメタンなどの気体と接してガスハイドレートになっている可能性があります。しかし、どのような条件のもとでハイドレートが存在しうるのかが不明でした。

 

内容

この研究では、大量の気体分子を取り込むことの出来るガスハイドレートが、さまざまな温度・圧力条件および組成比(気体と水の割合)において生成できるかどうかを理論的に正確に予測する方法を初めて考案し、これを外惑星の天体に適用しました。それによれば、エウロパやガニメデのように希薄な酸素大気と水とが接触している場合には、通常の氷が生じると予想されます。一方、大気圧が高く温度の低いタイタン、および極めて温度の低い冥王星では、大気の成分である窒素とメタンを含むガスハイドレートのみが生じ、通常の氷は存在できないことを突きとめました。また、タイタンの氷の地殻の下には液体の水で満たされた内部海があると考えられていますが[2]、この研究によるとタイタンの地殻には、表面から内部海に接する底面にいたるまで、ガスハイドレートが通常の氷とともに、あまねく存在すると予想されます。

 

見込まれる成果

土星最大の衛星タイタンは、地球以外で唯一、液体が地表に存在することが確認されています。タイタンの大気の大部分は窒素で、残る1.4%を占めるメタンが凝結し、雨となって降りそそぎ、渓谷を刻み、湖沼に流れこんで地球そっくりの地形をうみだしていることが、ESA(欧州宇宙機関)のホイヘンス探査機の調査(2005年)で明らかになっています。タイタンには大量の液体メタンが存在することから、一部では生命の存在も期待されています。しかし、本来メタンは光化学反応で変化しやすく、補給がなければ数千万年ほどでほかの物質に変換されると考えられます。そのため、メタンが地底からどのように補給されているかが大きな謎とされてきました。従来は、氷の火山の噴火等でメタンが地表に供給されると考えられていましたが、今回の研究は、タイタンの地殻中から大気にいたるまでのどの深さでもメタンが存在できること、そしてそのために内部海からの水の直接の噴火によらないで、地底からメタンがもたらされうることを示しました。

また、冥王星はその表面が極低温であるにもかかわらず、内部には液体の水をたたえた内部海があると考えられています。その原因は、通常の氷と比べて極めて熱を伝えにくいガスハイドレートの層が、毛布のような役割をしているためだという説が2019年に北海道大学の研究チームにより提示されました[3]。今回の研究によれば、もし冥王星表面が水に覆われてから十分時間が経過しているなら、表面には通常の氷はなく、ガスハイドレートのみが存在できます。このことは、表層付近のガスハイドレートのせいで、深部の水が凍らないという説を強く支持します。

 

Slice view of Titan

図 タイタンの大気と内部の物質[2]本研究によれば、地殻の上層部はメタンハイドレートのみで構成され、マントルと接する面には水氷も存在する。

 

 

以下は論文の概要の翻訳です。

本研究では、星間空間の熱力学的条件や人工衛星内の水圏表面の熱力学的条件を網羅し、0Kから200Kまでの極低温でのクラスレート水和物の熱力学的安定性を幅広い圧力範囲で調べている。相の振る舞いの評価は、分子間相互作用のみを入力とする厳密な統計力学理論に基づいて、圧力を変化させた量子分割関数を設定することによって行われている。ゲスト種として、衛星内の揮発性物質の主要な成分である希ガス,炭化水素,窒素,酸素を選択した。本研究では、水が豊富な条件下でのクラスレート水和物の水和物/水二相境界と、ゲストが豊富な条件下での水和物/ゲスト二相境界を調べた。いずれも氷晶衛星の表面または地下で発生するものである。得られた相図から、クラスレート水和物は三相共存条件から遠く離れた広い範囲で水またはゲスト種のいずれかと平衡状態にあること、また、クラスレート水和物の安定な圧力領域が冷却時に大きく拡大することが示された。このことは、タイタンの水の安定した形態についての我々の知見を示唆している。これは、エウロパやガニメデの表面では、薄い酸素空気が純粋な氷とのみ共存しているのとは対照的です。 (DeepL翻訳に手を入れました)