[雑記]
あるところに書いた、大学1年生向け推薦図書の書評です。

元素の王国、ピーター・アトキンス、草思社(サイエンスマスターズシリーズ)
ピーター・アトキンスは、物理化学の教科書の著者として有名だが、一般向けの科学啓蒙書も多数著している。この本は、周期表を地図になぞらえて、読者を世界旅行に案内する。縦書きの本とあなどってはいけない。著者の化学に対する深い造詣を存分に発揮し、元素の多様性と、性質の類似性のみならず、歴史、化学結合まで、図や比喩を交えてわかりやすく語る好著。
自然の中に隠された数学、イアン・スチュアート、草思社(サイエンスマスターズシリーズ)
複雑性は、21世紀の科学が直面する問題である。科学者は、精密かつ高分解能な実験測定や、大規模シミュレーションによって自然をより詳しく知ろうとしてきた。デカルト以来のこの還元主義はしかし、20世紀後半から台頭した、カオスを筆頭とする複雑系研究によって、限界が明らかとなった。単純な機構を多数集めると、複雑な現象が生まれるようなシステムを、複雑系と呼ぶ。複雑系は、要素に分解してしまうと複雑さを失うので、複雑系を理解するには、還元主義に代わる新たな科学の道具が必要である。著者は、力学系、カオス、対称性の破れ、フラクタルといった概念を用いて、自然を作りあげているしくみを説明する。しかし、これらだけでは説明できない複雑な機構を、生物は随所で利用している。どうすれば、もっと自然を理解できるだろうか。著者は、数学こそが複雑系を扱える道具だと確信してはいるが、この本を最後まで読んでも具体的な手法は示されない。なぜなら、その数学はまだ誰にも発明されていないからだ。「なぜ」に何でも答えてくれる、高校までの教科書に慣れている人は驚くだろう。科学の未解決問題はまだ山積しているのである。学生諸君は、この本を読んで、未来の科学の方法に思いを馳せ、いつの日かこの物語の続きを書いてほしい。
2019年04月22日 11時12分58秒

[2004年10月26日]

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