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水を4℃以下に冷却すると、膨張しはじめます。この性質は他の項でも紹介しましたが、その原因はそんなに単純ではありません。(→氷は水に浮く、水の特異な物性)

よくある説明は、氷の密度が低いことと混同して、「水というのは、密度が低い氷の結晶にたくさんあるすきまに水分子がはいりこんだ構造なのだ。だから水のほうが密度がたかく、温度を下げると氷のような構造が増えるので、膨張するのだ」というものですが、水を冷やすと膨張する性質は、実は氷の密度が低いこととは直接関係ありません。

水を冷やすと膨張する傾向は、0℃以下の過冷却状態(液体のままで融点よりも温度を下げること)ではどんどん加速します。-45℃まで冷やすことができれば、密度0.94g cm^^-3^^まで下がると考えられています。(氷の密度は0.92g cm^^-3^^、100℃の熱湯の密度は0.96g cm^^-3^^))

もし、水を冷やしていくにつれて、氷の断片的な構造が水の中に増えるとしましょう。膨張する原因を、この氷の断片の増加にすべておしつけるとしたら、過冷却の水の中には、氷の構造が相当たくさん存在するはずです。一方、過冷却状態でそんなに結晶の構造が増加すると、それを種にして、あっという間に水は凍ってしまうでしょう。

計算機シミュレーションでも、過冷却の水は膨張しますが、結晶状の構造はほとんど増加しません。冷却した水は結晶氷「のような」構造ではあっても結晶氷ではない別の構造に変わっていくのです。その構造とは、低密度アモルファス氷です。

氷「のような」構造が増える、といっても、氷「のような」断片的な構造が占める割合が増えるから膨張する、というわけでもないようです。低密度アモルファス氷の構造の部分を特定することはできる(→vitrite参照)のですが、膨張はその部分だけでなく、あらゆる部分でほぼ均一におこっていることがシミュレーションの結果からわかっています。

つまり、水を冷やすと、結晶氷のような構造が増えるから膨張する、という言説は、2重に誤っています。まず、増えるのは結晶の氷ではなく低密度アモルファス氷です。また、低密度アモルファス氷の構造が増えることと、膨張することに関連はありますが、低密度アモルファス氷の構造になったらその部分が膨張する、という因果関係は示すことはできません。

水が4℃以下で膨張するのはなぜか、という問いに対して、マクロな視点で「それは低密度アモルファス氷に向かうからだ」と答えるのは間違いではないですが、分子レベルではまだ説明されていないと言うべきでしょう。
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!!References
+M. Matsumoto, Phys. Rev. Lett 103, 017801 (2009).[[DOI:10.1103/PhysRevLett.103.017801]]

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