引っ越しました。

2019年9月よりhttps://vitroid.github.ioに移転しました。
ここにあるコンテンツも今後は引っ越し先で更新していきます。


[水素結合ネットワーク]
[中距離秩序]
[過冷却水]
[water]
[Networkism]

 「水らしさ」はどこからくるのか


水は通常の液体と比べて、いろいろ変わった性質を持っているということは、中学校でも教えているようです。Martin Chaplin の水研究のサイト ( http://www.lsbu.ac.uk/water/anmlies.html )に行くと、実に60種類を越える異常な物性が列挙され、逐一説明が与えられています。

しかし、水分子自体は、ほかの分子と同じように、数種の原子が化学結合してできた、小さな分子であることに違いはありません。水と、水以外の分子で本質的に違うところは何なのでしょうか。言い方を変えれば、水分子の性質をどのようにいじると、「水らしさ」が失われて、ほかの物質と同じような物性を持つようになるでしょうか。

水分子は、たった2種類、3個の原子からなる、1nmにも満たない小さな分子です。この分子の性質をいじると言っても、ほとんどいじれるパラメータがありません。例えば、水は双極子が大きいとよく言われますが、双極子の大きさをスケールしても、それは分子間相互作用の強さを定数倍するだけのことであり、温度をスケールするのと本質的には大きな違いはないでしょう。分子の結合距離を変えるのも、距離スケールを変えることとそう違わないでしょう。だとすれば、調節可能なパラメータはH-O-H角ぐらいしかないということになります。

もともと、水分子のH-O-H角は、正四面体角109.5度に非常に近いため、1つの水分子の周囲の4つの水分子はほぼ正四面体の頂点方向に配位しており、このことが水の構造のすきまを大きくし、結晶のほうが液体よりも密度が低いという性質を生みだします。実際、シリコンやゲルマニウムのように正四面体型配置を好む物質も水と同じように、液体よりも固体のほうが密度が低いという特徴を持っています。水分子の角度が109度から広くなっても狭くなっても、次第に低温で膨張する傾向は失われていくことが予想できます。一方で、水素結合の強さは角度とは直接関係ありませんから、水の「沸点が異常に高い」「表面張力が大きい」といった性質には影響を与えないでしょう。このように考えていくと、水の異常な物性を、H-O-H角度に原因があるもの、水素結合の強さに原因があるもの、という風に分類して別々に説明を与えることができるようになります。

水のH-O-Hが、もしもっと広かったり狭かったりすると、水の物性は変化するでしょうか。現実の水分子のH-O-Hを変化させることは不可能ですから、実験的にこの疑問に答えることはできません。せいぜい、水と同じように2種類3原子からなる、屈曲した分子をさがしてきて、物性を比較するしかありませんが、その場合には分子内の角度だけでなく、様々な分子間相互作用に違いがあるため、何が本質的に重要かを知ることは難しくなります。しかし、コンピュータシミュレーションであれば、人為的にH-O-H角を変えることは容易です。

実際にH-O-H角を変化させた水分子のシミュレーションを行うと、驚くべき結果が得られます。水を冷却すると、ある温度から膨張しはじめるという性質は、H-O-H角度を多少広くしても、失われるどころか、むしろより明確に現れるようになります、一方、H-O-H角を狭くすると、水の物性は劇的に変化します。わずかの角度変化で、水はもはや低温で膨張しなくなり、ほかの液体と同じように冷却するとひたすら収縮しつづけるようになります。

面白いのは、このようにマクロな物性は大きな変化をおこしていても、微視的な構造は一見するとほとんど変化していないように見えることです。例えば配位数はH-O-H角が変化してもほとんど4配位が保たれますし、1つの水分子と、2つの隣接分子が作る角(配位角?)も連続的に変化するようにしか見えません。ところが、中距離構造(10〜20分子の水が作る構造、非晶子)には明確な変化が現れてきます。H-O-H角が変化することにより、隣接分子の配置に微妙な変化が生じ、それがさらに中距離構造では大きな違いに増幅され、結果的にマクロな物性にまで違いが生じると推察されます。

このサイトで何度も指摘しているように、水はネットワーク性物質であり、水の性質は水分子が決めているというよりむしろ、水分子の作る水素結合ネットワークのトポロジーが決めています。(→ネットワーク主体論) 短距離構造の微妙な違いは、水の水素結合ネットワークに少なからず変化をおこし、水の性質を大きく変化させてしまうのです。

このように、水分子のH-O-H角を変えるという操作は、単なる絵空事と思われるかもしれません。しかし、水の性質を決めているのが水分子ではなく、水分子のネットワークの構造であるなら、例えば、水にほかの物質を溶かすことで、水のネットワークを恣意的に変化させることができるかもしれません。そうすれば、低温でも膨張しない水(溶液)や、水に沈む氷を作ることも可能になるでしょう。

このストーリーは、平成20年度卒業生の江口加奈さんの卒業研究に基いています。

[2009年3月5日]

[2004年10月26日]

メニュー

岡山大学

関連ページ

<< 2019-10 >>
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

検索

キーワード

class

gallery

research

water

analysis

fractal noise

risk

lifehack

雑記

survey

software

links

あしあと



最新

2019/8/29

2019/5/28

2019/5/13

2018/12/9

2018/10/11

Add