三島らの研究により、アモルファス氷には2種類あることが知られており、しかも2つのアモルファス氷の間には一次相転移が観察されています。(文献1)このうち、低圧で観察される低密度アモルファス相は、高圧側の高密度アモルファス相よりも安定で、エントロピーも小さい(より秩序的)ことが知られています。(文献2)
2つのランダム相の間で一次相転移が起こる可能性については、近年いろんなモデルで調べられ、また最近では実験でも(水以外で)液液相転移する系がいくつもみつかりはじめました。(文献3)水も2つのランダム相の間で一次相転移がおこっても不思議はないと考えられます。
ただし、一次相転移が起こるということは、相共存がおこるということでもあります。つまり、2つの相が、互いを排斥しあう(結果として2つの相の間に相界面が形成される)必要があります。水のような、比較的短距離な相互作用しかもたない物質が、2種類の構造ドメインを形成し、かつ互いのドメインを認識して排斥しあうという状況を分子スケールの描像で説明できるでしょうか?
これが私の最近の最大の疑問でした。このような相分離がおこるためには、実は両方の相がそれぞれ自己凝集する必要はなく、どちらか片方の相だけが凝集すれば、残る相は自動的に排除されて別のドメインを作ります。気液共存の場合は、液体相が自己凝集性を持つ相であり、気体は凝集力がなくても、結果的にドメインを作ることになります。水の液液相転移の場合は、秩序があるのはLDA相なので、LDAの構造のなかに、自分たち同士が集まって、より安定になれる仕掛けがあるに違いない、と私は考えました。
低密度アモルファス氷の構造上の最大の特徴は、すべての水分子がほぼ4配位になっている点です。水を過冷却すると、4配位の水分子がどんどん凝集するという状況証拠は多数報告されてきましたが、(文献4)4配位を好む性質自体が、自己凝集をもたらすことを、きちんと説明する理論はありませんでした。私は、vitrite(ガラス状氷の構成部品)という概念を導入することで、この自己凝集性を説明できると考えています。(文献5)
[2007年10月2日]
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