田中 秀樹

田中 秀樹

教授


事務所:
700-8530 岡山県 岡山市 津島中3-1-1
理学部本館 (1号館) A129

Tel: 086-251-7769
Fax:

Email: htanakaa(at mark)cc.okayama-u.ac.jp

学歴

  • 1999年4月 分子科学研究所理論研究系 教授(併任)
  • 1998年4月 岡山大学理学部 教授
  • 1991年3月 米国コーネル大学 博士研究員(1年間,ニューヨーク州イサカ)
  • 1987年7月 京都大学工学部 助手
  • 1986年4月 分子科学研究所理論研究系 技官
  • 1984年4月 分子科学研究所理論研究系 日本学術振興会特定領域奨励研究員
  • 1984年3月 京都大学工学博士
  • 1984年3月 京都大学大学院工学研究科工業化学専攻博士課程修了
  • 1981年3月 京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修士課程修了

主要論文(5件)

  • Confined Water in Hydrophobic Nanopores: Dynamics of Freezing into Bilayer Ice.
    J. Slovak, K. Koga, H. Tanaka, and X. C. Zeng, Phys. Rev. E.,60, 5833-5840 (1999).
  • Fluctuation of Local Order and Connectivity of Water Molecules in Two Liquid Phases.
    H. Tanaka, Phys. Rev. Lett., 80, 113-116 (1998).
  • Thermodynamic Stability and Negative Thermal Expansion of Hexagonal and Cubic Ices.
    H. Tanaka, J. Chem. Phys., 108, 4887-4893 (1998).
  • Freezing of Confined Water: A Bilayer Ice Phase in Hydrophobic Nanopores.
    K. Koga, X.C. Zeng, and H. Tanaka, Phys. Rev. Lett., 79, 5262-5265 (1997).
  • A self-consistent phase diagram for supercooled water.
    H.Tanaka, Nature, 380, 328-330 (1996).
  • FULL PUBLICATION LIST

過去の招待講演・海外国際会議での発表

  • Potential Energy Surface of Metastable Water.
    H. Tanaka, (Bunsen Discussion Meeting on Metastable Water, Germany, 1999), invited.
  • Hydrogen Bonds Between Water Molecules: Thermal Expansivity of Ice and Water.
    H. Tanaka, (International Conference on Solution Chemistry, Japan,1999), invited.
  • Phase behavior of supercooled water and formation of 2D ice.
    H. Tanaka, (Gordon Research Conference, USA, 1998) invited.
  • クラスレート・ハイドレートの生成の計算機シミュレーション.
    田中秀樹, (日本化学会中国四国支部化学懇談会, 岡山, 1998)
  • 水の液液および固液相転移の機構とダイナミックス.
    田中秀樹, (第2回理論化学討論会, 岡崎, 1998)
  • Phase diagram of supercooled water and liquid-liquid transition.
    H.Tanaka, (Workshop on Hydrogen Bonds at High Pressure, Japan, 1997).
  • Phase diagram for supercooled water and liquid-liquid transition.
    H. Tanaka, (Japan-Korea Joint Symposium on Clusters and Related Compounds, Japan, 1997) .
  • 液体状態の水の低密度-高密度相の転移と相平衡,
    田中秀樹, (日本物理学会第51回年会, 金沢, 1996)
  • Reconciling the phase behaviors of supercooled water,
    H. Tanaka, (American Chemical Society National Meeting, USA. 1996) invited.
  • FULL LIST

過去の研究助成

  • 1998-2000 科学研究費 特定領域(B) (1830万円)「水の液液および固液相転移の機構・ダイナミックスとポテンシャル面」代表 田中秀樹
  • 1999 分子科学研究所 客員特別研究費 (80万円)「水の液液および固液相転移の機構・ダイナミックスとポテンシャル面」代表 田中秀樹
  • 1998 吉田科学技術財団 (20万円)「Gordon Research Conferenceにおける講演のための渡航」代表 田中秀樹
  • 1996-1997科学研究費 基盤(C) (220万円)「低温における水の準安定相間の相転移の理論的研究」代表 田中秀樹
  • 1997 機能水研究所 (100万円)「水の理論的研究」代表 田中秀樹
  • 1996 科学研究費 重点領域 複雑液体 (180万円)「高圧での非晶質氷の相転移の機構とダイナミクス」代表 田中秀樹

共同研究・研究協力

  • H.E.Stanley, Boston University, C.A. Angell, Arizona State University, JSPS/NSF 2000-2002
  • X.C.Zeng, Univ. of Nebraska, JSPS 1999
  • U. Mohanty, Boston College, JSPS/NIH 1999

研究内容についてひとこと

水は気象など地球規模の現象から、タンパク質の安定性や機能の発現などミクロな現象に至るまで、我々の生命活動に欠くことができない重要な物質である。このことは、水が物理化学的に特異な液体であることと密接な関連がある。例えば大気圧の下では密度は4度Cで最大となる。また通常の液体では温度の上昇と共に圧縮し易くなり等温圧縮率は増加するが、水では46度C付近で極小値をとり低温になっても増大する。この特異な性質は、液体状態における水の構造が氷の構造に似ていること、液体状態でも水素結合は切断されずに残っていることに由来する。氷点以下に冷却した準安定な液体状態ではさらに顕著になる。等圧熱容量は(等温圧縮率も)過冷却状態では非常に大きな値となり、228Kで発散するように見える。しかし、大気圧下では水を過冷却できる限界は約233Kであり、これ以下では均一核生成が起こり氷への転移を避けることができない。そのために発散が実際に起きるのかあるいは有限であるのか、またその原因についても多くの推測がなされてきた。
融点に対する過冷却が実現出来る温度(差)の比は、一般の液体では0.3程度であるが、水は0.14と小さい。そこで、水を通常の方法で急冷してガラス状態に到達することは実験的には困難である。水は結晶になり易く無秩序な状態を低温まで維持しにくい。特殊な方法により作った低密度非晶質(LDA)氷は 136Kでガラス転移を示し、また加熱により150K付近で氷に転移する。つまりLDAは136K以上150K以下では液体である。この温度範囲での準安定な液体の相変化が、水の特性を理解する上で最も重要であるが,実験的には150Kから228Kまでの範囲は観測不可能である。
これらの問題を解決するためには、核形成が起きる以前の非常に短いでの熱力学量の測定を行う必要がある。このためには通常の実験ではなく計算機を用いたシミュレーションが有力な手段である。計算機シミュレーションでは、距離と配向の関数としてあらわした水分子間の相互作用を仮定し、分子間に働く力を計算しながら運動方程式を解いて、分子運動の軌跡を求める。
計算機シミュレーションからは高圧から大気圧に近い低圧まで異なる二相の液体があり、高温側では高密度相また低温側では低密度相が安定であるという、驚くべき結果が得られた。低温の液体の水は氷よりわずかにエントロピーが大きい状態であり、通常の水と比べ水素結合の欠陥が少ないことが分かった。この結果から、水の特殊性や溶質の添加による水の不凍化を説明することが可能となった。

研究業績の概要

  • I.水溶液およびイオン-クラスターの研究
    非電解質水溶液の構造と動的挙動を明らかにする目的で計算機シミュレーションを行った。特にアルコールと尿素に注目して、実験で観測される量を微視的な視点から説明することを目指した。溶質-水および溶質-溶質の分子間相互作用を分子軌道計算に基づいて決定し、計算機シミュレーションから溶質の自己会合における水の役割を検討した。アルコール類では溶媒としての水が介在することによる間接的な相互作用が会合の原因であり、尿素の自己会合は尿素間の直接の相互作用によることを明らかにした。また尿素のタンパク質変性の原因は水の構造破壊によるものではないことを示した。これらをもとに疎水性水和における水の役割を検討した。さらに量子化学的計算により分子間相互作用を決定して、種々のイオン-クラスターの安定構造を調べて実験との比較を行った。
  • II.水の構造とダイナミックスに関する研究
    個々の水のポテンシャルエネルギーの揺らぎは運動エネルギーの揺らぎの4倍以上で、変化の速さは0.01ピコ秒程度であり、水素結合の生成・消滅が短い時間に容易に起こっていることを発見した。さらに数ピコ秒の大きな揺らぎが存在し、運動エネルギーの揺らぎを伴わずに大きなポテンシャル揺らぎが可能であることの原因を明らかにする目的で種々の解析を行った。その結果、液体状態の水では集団運動が揺らぎの原因であり、その集団運動の単位は10~50分子であることを示した。集団運動の運動力学を調べるために、系全体のポテンシャルを解析し、水素結合ネットワークの組み替えを起こすときの反応座標をもとめ、エネルギー障壁の非常に低い経路があることを見いだした。
  • III.積分方程式による溶液構造の研究
    分布関数論における積分方程式に基づいて、種々の溶質の水和構造や溶質どうしの会合状態に関する研究を行った。無極性溶質の水和構造と熱力学量の関係に注目し、水和時の発熱とエントロピー減少の原因について、シミュレーションの結果とあわせて検討した。これまでは得られなかった配向に関する情報を、自由エネルギーを通じて計算する方法を開発した。これを種々の溶質の水溶液中での会合状態の研究に適用した。水分子が介在することにより、真空中や有機溶媒中では起こり得ない同種電荷をもつ原子間に引力が働くことを発見した。また超臨界状態の溶解度の予測や溶媒和構造の研究にも適用した。
  • Ⅳ.包接水和物の熱力学的安定性に関する研究
    水分子が水素結合をしたネットワーク中の空洞に、炭化水素、二酸化炭素などがゲスト分子として取り込まれた非化学量論的結晶である包接水和物の安定性と相平衡を、分子間の相互作用のみから予測するための方法を確立した。この水和物の安定性は従来経験的に決められていたが、本研究で新たに提案した方法ではゲストと格子のカップリングが陽に取り込まれ、実験との一致が非常に良くなることが確かめられた。氷と比較して水和物の異状に小さい熱伝導率や大きな熱膨張率の原因を、非平衡分子動力学シミュレーションと格子力学計算により明らかにした。さらに、アミン水和物では水素結合の寿命が時間のべき関数型と指数関数型の部分から成ることを発見し、水素結合の生成・消滅の機構が2種の異なる確率過程で記述されることを示した。(クラスレートⅠ・クラスレートⅡ)
  • V.過冷却水の構造と相転移に関する研究
    過冷却状態では特異な水の物性がより強調され、低温では比熱や等温圧縮率には発散がみられるがその原因は明らかではなく、アモルファス氷と常温の水が同一相であるかどうかも論争の的であった。本研究では等温等圧条件下でシミュレーションを行い、低圧でも水には低密度と高度の2相があることを発見した。この2相は大気圧下では密度差は非常に小さく、高圧になるに従い密度差は大きくなること、また大きな負の圧力下では1相しか見られないことから、2種の液相の臨界点は浅い負の圧力領域にあることを予測した。比熱などの発散は臨界点とスピノーダル線の存在により説明可能となった。配位数や水素結合数など水に特徴的な性質が高密度と低密度の液体の基本構造において大きく異なり、低密度相の液体は氷とほぼ同様の短距離秩序を有することを示した。さらに、疎水壁に囲まれた水は比較的容易に特殊な2次元氷に相転移を起こすこと、およびその氷のプロトン無秩序性に由来するエントロピーの厳密な計算方法を発見した。
  • VI.高分子中での低分子の透過及び水溶性高分子の動的挙動の研究
    高分子膜中における低分子の透過現象を解明するために、分子シミュレーションにより溶解度と拡散を調べた。ポリエチレン膜の場合とは異なり、ポリジメチルシロキサン膜のエタノール選択透過性は高い溶解度に起因し、これが自由体積の分布と相互作用エネルギーによって説明できることを示した。また多価アルコールや水溶性ポリマー中の水の物性と高分子の運動性、およびポテンシャル面の関連を調べるため、分子間相互作用を量子化学計算により決定し、計算機シミュレーションを行った。特に低温における高分子の主鎖、側鎖の運動の凍結と周囲の水の緩和時間の温度依存性の関係に注目して、純粋な水との緩和の機構の違いを明らかにした。H.E.Stanley, Boston University, C.A. Angell,

メッセージ

化学の基本は実験ですが、それよりもさらに重要なのは化学だけでなく物理や数学の基礎を理解して、研究での必要に応じてそれを使うことができる能力を身につけることです。私のように実験が苦手になってしまった人には、計算機による化学反応の予測や液体・固体のシミュレーションという新たな研究方法もあります。